3月31日付で佐賀県と佐賀県弁護士会が、佐賀県立学校での「スクールロイヤー」の導入に関する協定を締結しました。
(佐賀新聞の記事 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1013352 )
私(半田)も導入に当たって弁護士会側で制度設計の検討や佐賀県との実務者レベルでの協議に関わらせて頂きましたので、少しこの制度についてご説明をさせていただければと思います。
まず「スクールロイヤー」と言っても、どのような制度や役割なのかピンとこない方も多いかと思います。法律上の決まった定義はありませんが、一般的な認識として「弁護士が学校の現場において、子どもの最善の利益のために学校や教育委員会に対して法的側面をふまえたアドバイスを行い、問題の未然防止・早期解決を図るお手伝いをする」というものと考えていただければ間違いはないものと考えます。
「スクールロイヤー」としては、学校側の立場で学校の法律問題を扱う弁護士を指す場合もありますが、そのスタンスについては学校側の利益を擁護する立場に立つか、学校や児童生徒・保護者側のいずれかに偏ることなく中立的立場から法的助言を行う立場に立つか、という違いがあります。前者については各自治体や学校の顧問弁護士が対応することが一般的ですが、近年の複雑化する学校現場の問題をふまえ、問題の防止・早期解決を実現する方法として、中立的な立場の弁護士をスクールロイヤーとして活用するケースも増えてきています。
学校現場で弁護士を活用しようと言う流れは、平成27年の文科省・中央教育審議会の提案でした。最初は学校現場への不当クレームへの対策として、民事介入暴力対策等で知見を有する弁護士を活用できないかという議論でした。その後、2017年(平成29年)からいじめ防止のためのスクールロイヤーの活用についての調査研究がなされ、制度構築に向けての議論が進められてきました。2020年12月には、文科省が「教育行政に係る法務相談体制構築に向けた手引き」を発表し、学校現場での弁護士の活用について一定の形が示されることとなりました(「NIBEN Frontier」2021年12月号、第二東京弁護士会)。
佐賀県弁護士会でも、これまで各小中学校を中心に「いじめ予防授業」を実施してきましたが、令和3年度より佐賀県に対していじめ予防を含めたスクールロイヤーの導入の提案を行い、規模や業務内容、実施形態、スクールロイヤーの立ち位置や顧問弁護士との業務の棲み分けなどの協議を経て、今般の協定に至ったものです。
佐賀県でのスクールロイヤーについては、報道にもあるとおり「中立的立場から学校に対して法的助言を行うこと」のほか「生徒に対するいじめ予防授業の実施」、「教職員に対する研修への協力」が含まれています。県立学校での問題についてはこれまでも県の顧問弁護士が助言を行っていましたが、どうしても相談までに時間がかかるということや、現場にも気軽に弁護士の意見を聞きたいというニーズがあることをふまえて、いわば「裾野」の部分をカバーする役割になれるのではないかと考えています。
佐賀県でのスクールロイヤーは学校からの相談を受けるものですが、立場としては学校側の利益に偏ることなく、問題の予防や解決に向けて子どもの利益を中心に考えて活動をする、という制度になっています。なお、児童生徒や保護者からの相談については、弁護士会が別途法律相談制度を設けていますのでそちらを利用頂くか、個別に弁護士に相談していただくこととなります。スクールロイヤーの導入によって、学校現場で「どう対応したらよいか悩ましい」事案に法的観点からの助言が入ることにより、現場の苦労が少しでも軽くなることが期待されています。また、誤った対応により子どもの利益が害されたり、トラブルが大きくなることを未然に防ぐことも期待されます。
学校の先生方は教育の専門家ではありますが、法的判断については必ずしも十分な知見があるとは限りません。私が経験した事例でも、明らかに法的(人権レベルです)に問題のある対応がなされていたり、逆に違法不当な要求に正面から向き合おうとして疲弊されていることもありました。もちろん、法的妥当性と教育的判断が必ずしも一致するものではありませんが、少なくとも人権レベルの問題については教育的判断よりも尊重されるべきでしょうし、矛盾する場面が生じたとしてもその矛盾を解消するべく配慮を行うことは必要です。そのような場面において、法的知見からのアドバイスを加えることで、よりよい解決が可能になるのでは、と制度に対して期待するところです。また、違法不当な要求については法的な観点からの対処法を助言することで、現場が過剰に萎縮・疲弊することも防げるでしょう。
また、弁護士会にはこれまで10年間行ってきたいじめ予防授業の知見や、SNSなどの新しい問題に対応するための知見もあります。これらを教育現場で活用いただくことで、少しでも教職員の負担を減らし、教育が充実していく結果になることを祈念するばかりです。
(半田)