刑事事件のご相談では、「まだ逮捕されていないのに相談してよいのか」「とりあえず警察の事情聴取を受けた後に相談していいか」というお尋ねをよくいただきます。結論から申し上げると、刑事弁護は早いほど選べる手段が多く、遅くなるほど打てる手が減っていきます。取調べで不用意な発言をすると致命傷になることもあります。そこで、捜査の流れに沿って、どの段階で何ができるのかをご説明します。
1 最も望ましいのは、「捜査が始まった」と分かった時点です
警察から呼び出しの電話があった、事情を聞かれた、自宅や会社の捜索を受けた。このいずれかがあれば、すでに捜査は始まっています。逮捕されていなくても、相談するのに早すぎるということはありません。
理由は単純です。刑事手続は、進むほど後戻りができなくなるからです。取調べで作られた供述調書、勾留の決定、起訴の判断は、いずれも後から覆すことが難しく、それぞれ、その前の段階でしか働きかけることができません。特に取調べで不用意な発言をすると、取り返しのつかない致命傷になることもありますので、警察の事情聴取を受ける前に弁護士に相談することが最善です。
2 逮捕される前なら、逮捕そのものを避けられることがあります
逮捕前にご相談いただいた場合、まず取調べへの対応を一緒に考えます。話す義務はないこと、供述調書に署名押印をする義務もないこと、不用意な発言をすると捜査機関に都合良く曲解される可能性があること、いったん署名した調書を後から覆すのは極めて難しいこと。こうした前提を知らないまま最初の取調べに臨む方が少なくありません。最初の取調べが、その後の見通しを大きく左右します。
また、逮捕そのものを避けられる場合があります。逮捕は、逃げるおそれや証拠を隠すおそれがあるときに認められる手続です。任意の呼び出しに応じている、住居も勤め先もはっきりしている、被害者との話し合いが進んでいる。こうした事情を弁護士が整理して捜査機関に伝えることで、身柄を拘束されずに手続を進められることがあります。在宅のまま進むかどうかは、生活への影響という点で決定的な差になります。
さらに、弁護人が就いていること自体が、逮捕を避ける方向に働きます。逮捕の理由となるのは、逃げるおそれと証拠を隠すおそれです。弁護士が窓口となり、呼び出しには必ず応じる、連絡はいつでも取れるという体制が整っていれば、逃亡のおそれは小さいと評価されやすくなります。被害者とのやり取りも弁護士が担いますので、ご本人が被害者に接触して証拠を隠すのではないか、という懸念も薄れます。
3 取調べに弁護士が同行する ―「準立会い」
逮捕される前の取調べには、弁護士が同行することができます。通常、捜査機関は弁護人が取調べに立ち会うことを認めませんが、弁護士が警察署まで一緒に行き、庁舎内で待機して随時必要な助言をすることは可能です。これを「準立会い」と呼んでいます。
取調べの前に方針を確認し、終わった直後に何を聞かれ何を答えたのかを記録に残せます。途中で不安が生じたときも、「弁護士と相談したい」と言って中断を求めることができます。弁護士が同じ建物にいることは、長時間の取調べや、威圧的な取調べに対する歯止めとして働きます。実際に弁護士が帯同することで取調べの時間が目に見えて短くなったという経験を何度もしています。
なお、任意の取調べは本来いつでも中断し、退去できるはずのものですが、警察は色々と理由を付けて引き留め、自分たちの筋書きにそった供述を得ようとします。弁護士が同行していない状態で警察の引き留めを振り切って退去することは困難ですが、弁護士が同行していれば「今日はこれで帰りますね」と言って退去することも容易になります。また、弁護士から打合せのための取調べ中断を求めることもできます。実際の国家賠償請求訴訟でも、弁護士が被疑者との打合せを求めたにもかかわらず取調べを続けたことが違法とされたもの(櫻井国賠、東京地判令和2年11月13日、東京高判令和3年6月16日)があります。
4 逮捕から72時間、会えるのは弁護士だけです
逮捕されると、警察は48時間以内に検察官へ事件を送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを決めます。逮捕からここまでが72時間です。
この72時間の間、ご家族は原則としてご本人に面会できません。会えるのは弁護士だけです。しかもこの時期、ご本人は最も動揺しており、取調べは連日行われます。何を聞かれ、どう答えたのかを外から知る手立ては、弁護士の接見以外にありません。
ご家族から「本人と話せないので、どうしてよいか分からない」というご相談をいただくのは、たいていこの時期です。ご本人が動けない状況ですので、ご家族からのご依頼で構いません。逮捕の連絡を受けたその日にご相談ください。
5 勾留を止められるかどうかで、その後の生活が変わります
検察官が勾留を請求すると、裁判官が勾留するかどうかを判断します。勾留が決まると原則10日、延長されればさらに10日、合計20日間身柄を拘束されます。
この段階で弁護士は、勾留をさせないための材料を集め、検察官に勾留を請求しないよう求め、裁判官と面談して意見を述べ、勾留が決まった場合には準抗告という不服申立てを行います。ここで身柄が解かれるかどうかで、その後がまったく違ってきます。20日間出社できなければ職を失いかねませんし、学生であれば学校にも知られます。有罪か無罪かが決まる前に、生活の基盤のほうが先に壊れてしまうのです。
注意していただきたいのは、これが時間との勝負だという点です。勾留を請求するかどうかは逮捕から72時間以内に決まり、裁判官の判断もその日のうちに出ます。意見書を作り、裁判官との面談を求め、勤務先や家族の身元引受書を整えるまでを、この短い時間の中で行わなければなりません。逮捕の当日にご依頼いただく場合と、数日経ってからご依頼いただく場合とでは、できることが大きく違います。
6 勝負どころは起訴される前です
勾留の期間が満了するまでに、検察官は起訴するかどうかを決めます。起訴後に事実関係を争う場合、裁判が長期化し被告人や関係者の負担も極めて大きくなります。また、事実関係を認めている場合でも判決まで数ヶ月がかかり、その間の負担は軽視できません。したがって、勝負どころはいかにして不起訴を獲得するか、もし起訴されることがやむを得ないとしても争いのない範囲での起訴に止めることができるか、ということになります。
【事実を認めている場合】目標は早期の身体拘束からの解放と、処分をできる限り軽くすることです。中心になるのは、被害者のいる事件であれば示談と被害弁償です。被害が回復され、被害者が処罰を望まないのであれば、起訴猶予として不起訴になる可能性が出てきます。起訴されるまでに示談が成立するかどうかで結論が変わりますので、着手は早いほどよいことになります。
捜査機関は、被害者の連絡先をご本人やご家族には教えません。弁護士に対してのみ、被害者の同意を得たうえで伝えるのが通常の運用です。ご家族が独自に被害者へ接触しようとすると、かえって証拠隠滅を図ったと受け取られ、事態を悪化させます。示談を考えるのであれば、弁護士に依頼するほかありません。
あわせて、再発を防ぐ環境を整えます。生活環境や職場との調整、病気がある場合は通院や治療体制の構築、依存の問題があれば専門機関につなぐこと、ご家族や支援者による監督の体制作等を行い、結果を資料の形にして検察官や裁判所に示します。
なお、認めている場合でも、捜査機関の見立てをそのまま受け入れてよいわけではありません。動機、回数、金額、行為の態様、共犯者との関係など、量刑や罪名を左右する部分については慎重な説明が必要です。捜査機関の見立てに沿った調書に「大筋は合っているから」と署名してしまうと、予想外の重い処分を受けることもありますし、後からその部分だけを争うのは困難です。どこまでの事実をどのように話すかの判断には正確な事件の見立てや法律の知識が不可欠です。認めている事件だから弁護士が不要、ということはないのです。
【事実を争う場合】取調べへの対応が決定的になります。否認している間、取調べは長く、繰り返し行われます。その中で、疲れから迎合的な受け答えをしてしまったり、一部だけをあいまいに認めてしまったりすることが起こります。いったん認める内容の調書ができると、後に否認へ戻しても、供述が変わったこと自体を不利に評価されます。黙秘を選ぶかどうかも含めて、方針を早い段階で固めておく必要があります。
身体拘束の面でも、否認していること自体が証拠を隠すおそれの根拠とされやすく、勾留され、延長され、ご家族との面会も禁じられる接見禁止が付くことが少なくありません。接見禁止に対しては一部の解除を求める申立てができますが、これも早く動くほど実現しやすくなります。
なお、争っている事件で被害弁償を申し出るかどうかは、慎重な判断を要します。事実を認めたものと受け取られかねないためです。この点も、方針が固まる前にご相談ください。
7 事実を認めていいかどうかは慎重な判断が必要です
事実を認めるかどうかによって弁護活動の内容が変わってきますが、まず申し上げたいのは、認めるか争うかを、ご自身の感覚だけで決めないでいただきたいということです。例えば客観的事実には争いがなくても、犯罪の成立に必要な故意があったかどうかは別の問題ですし、正当防衛にあたる場合もあります。預かったお金を使ったという同じ事実でも、横領になるのか、より軽い評価にとどまるのかが分かれることがあります。取調べで「間違いありません」と述べることは、事実を認めるだけでなく、その行為が犯罪にあたるという評価まで認めたと受け取られます。いったんそうした調書ができると、取り返すのは容易ではありません。認否を決める前に、一度ご相談ください。
8 当番弁護士・国選弁護人との関係
費用が心配で相談をためらう方もいらっしゃいます。確かに、私選弁護を依頼される場合には弁護士費用が発生しますが、自らの身を守るために必要な費用と割り切っていただきたいとおもいます。
なお、逮捕された方は、弁護士会に連絡すれば当番弁護士を一度無料で呼ぶことができます。資力の要件はありませんので、まずはこれを利用する方法があります。
また、勾留された方には、国が費用を負担する被疑者国選弁護制度があります。ただし、国選弁護人は逮捕されずに在宅で捜査を受けている場合や、逮捕から勾留までの間は使えません。資力が十分にある方も対象外です。逮捕前の段階や、逮捕から勾留までの72時間は「弁護のゴールデンタイム」であり、この時間を逃すと逮捕勾留の回避や早期釈放の難易度は大きく上がります。身体拘束の回避が必要な場合には逮捕前か、遅くとも逮捕直後に弁護人を選任することをお勧めします。
まとめ
警察から呼び出しを受けた。家宅捜索を受けた。家族が逮捕された。このいずれかに当てはまるのであれば、その日のうちにご相談ください。刑事事件では、迷っている時間そのものが大きなマイナスになります。当事務所では、逮捕されていない状態や逮捕直後のご相談については、速やかに予約を入れて対応しております。ご本人が動けない場合は、ご家族からのご相談で結構です。
(半田)
