半田・江藤法律事務所からみなさまへ
2026.9.23 
コラム
自転車の関係する交通事故と佐賀県の状況

はじめに

2026年4月1日から、自転車の交通違反にも「青切符」(交通反則通告制度)が適用されるようになりましたが、筆者が観測する範囲では、自転車の交通マナーはまだ十分な改善がなされていないように思います。そこで、事故や過失の考え方を知っていただき、少しでも事故防止に繋がればとの考えから、

について弁護士の視点から解説をします。なお、統計数値の調査及び本コラムの下書きには生成AIを使用しています。

1.青切符導入後も、危険な運転は減っていない

 警察庁の発表によれば、制度開始後1か月で全国で交付された青切符は2,147件でした。多い順に、一時不停止846件、ながらスマホ(携帯電話使用)713件、信号無視298件です。

 違反に注意を促す指導警告票は、前年の月平均の1.5倍にあたる13万5,855件に上りました。青切符は原則として悪質・危険な違反に限って交付され、それ以外は現場での指導警告にとどめる運用がされています。1か月で13万件を超える指導警告がなされた事実は、制度開始後もルールを守らない自転車が数多く存在することを示しています。

 佐賀県内では、4月中に交付された青切符42件(暫定値)のほとんどが走行中にスマートフォンを使う「ながら運転」でした。このほか、指導警告カードが110件、16歳未満への安全指導カードが43件交付されています。いずれも並進、一時不停止、無灯火が多かったとされています。制度の導入によって「自転車の危険運転がなくなった」と言える状況には、まだほど遠いのが現状です。

 このように、自転車の危険な運転には青切符や指導警告がなされていますが、それ以外にも危険な運転はあります。筆者の観測範囲で目立つのが逆走、交差点での飛び出しや斜め横断、自転車が通行できない歩道の走行で、特に逆走は事故担ったケースを含め、かなりの数を見かけます。

2.自転車事故でよくある類型

 警察庁によれば、自転車と自動車の事故は年間約5万件発生し、自転車関連事故の約8割を占めています。その8割以上は出会い頭衝突と右左折時の衝突で、自転車側にも安全不確認や一時不停止などの違反が多く見られます。見通しの悪い交差点での飛び出しや、左折車による巻き込みが典型例です。

 自転車が加害者となる事故もあります。自転車と歩行者の事故で歩行者が死亡・重傷となったケースは、歩道上で最も多く発生しています。また、自転車乗車中の死亡・重傷事故のうち約4分の3で、自転車側にも法令違反が認められます。

 佐賀県内で自転車が関係した事故は、令和3年の427件から令和7年の289件へと減少傾向にあります。それでも、令和7年には285人が負傷し、2人が亡くなりました。負傷者のうち138人は10代で、約半数を占めています。通学などで自転車を使う中高生の安全対策が大きな課題といえます。

3.逆走していた場合、自転車の過失が加算される

 交通事故の損害賠償では、被害者にも過失があれば、その割合に応じて賠償額が減額されます。これを「過失相殺」といいます(民法722条2項)。たとえば損害が1,000万円で、自転車側の過失が30%と判断されれば、受け取れるのは700万円です。重い後遺障害が残るような事故では、過失割合が10%違うだけで、数百万円単位の差が生じることもあります。

 過失割合は、実務上、事故類型ごとに基本割合と修正要素を整理した別冊判例タイムズNo.39『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』を参照して判断されることが一般です。同書は改定にあたり自転車が関係する事故についても過失割合の例を詳しく示しており、自転車の事故の過失割合が問題となる場面が増えてきたことがうかがえます。ここでは、特に多いと思われる右側通行(逆走)の考え方を一部ご紹介します。

 自転車は道路交通法上「軽車両」であり、車道や路側帯では左側を通行しなければなりません。逆走(右側通行)は通行区分違反で、青切符の対象でもあります。

 自動車との事故では、自転車は交通弱者として過失割合が小さく評価されるのが基本です。しかし逆走していた場合には、自転車側の過失が加算されることがあります。例えば、逆走(右側通行)の自転車と対向する自動車が衝突した場合、自転車にも20%程度の過失があるとされています。

 その他にも、見通しの悪い交差点で自転車が右側通行し自動車の左方から交差点に進入して衝突した場合、自動車運転者が自転車を発見して回避することが困難であるため、自転車の過失を+5%すること(過失修正)も提示されています。また、自転車と歩行者の事故で、自転車が逆走(右側通行)している場合には、自転車に「著しい過失」があるとの考えも示されています。

 筆者の観測でもこのような逆走事故は珍しくありません。過失割合の判断でも、皆さんが考えているよりも自転車の交通違反は厳しく見られているということは知っておく必要があります。

4.ヘルメットの着用と保険への加入

ヘルメットの着用

 2023年4月から、すべての自転車利用者にヘルメット着用の努力義務が課されています(道路交通法63条の11)。しかし、佐賀県の着用率は2024年7月の調査で25.6%にとどまり、特に高校生年代の着用率の低さが課題とされています。

 警察庁によれば、自転車の死亡事故の約半数は頭部の怪我が原因です。また、過失割合の判断においても、ヘルメットを被っていないことが損害拡大に寄与した場合、過失修正において考慮するという考えが前掲別冊判例タイムズでも示されています。ヘルメットを被らないことは、重篤な被害の防止だけでなく、賠償の範囲においても影響があることを知っておくべきです。

個人賠償責任保険の加入

 自転車事故でも、自動車事故と同様に加害者が高額の賠償責任を負うことがあります。死亡や重度後遺症の場合、数千万円から数億円の賠償が命じられることもありえます。他方で、自転車は自動車と異なり自賠責保険がありません。そのため、万一に備えて任意保険に加入しておく必要があります。

 佐賀県は、条例で自転車保険への加入を「努力義務」としています。しかし、事故を起こせば、義務か努力義務かにかかわらず賠償責任は生じます。県も、加入済みの方に次の点を確認するよう呼びかけています。

 自動車保険や火災保険の特約で個人賠償責任保険が付いている場合もありますので、まずはご加入中の保険をご確認ください。

弁護士費用特約

 被害者として相手方に賠償を請求する場面で役立つのが、弁護士費用特約です。弁護士費用が補償され、上限は1名あたり300万円とする例が一般的です。ただし、この特約には「自動車事故のみ」と「自動車+日常事故」のタイプがあります。自転車同士の事故や、歩行中に自転車にはねられた事故は、日常生活事故型でなければ対象になりません。ご自身の特約がどちらのタイプか確認しておきましょう。

5.何より大切なのは、事故を起こさない・遭わないこと

 過失割合や保険は、いずれも事故が起きた後の話です。自転車は身体を守る車体がなく、事故は生命・身体に直結します。どれほど賠償を受けても、失われた命や健康は元に戻りません。

 加害者となれば、民事・刑事の責任に加え、大きな精神的負担を負うことにもなります。日頃から次の基本を守ることが、ご自身と周りの人を守ることにつながります。

佐賀県では若い世代の事故が多いため、ご家庭でもお子さんと一緒にルールを確認してみてください。