刑法には賭博罪の一種として「富くじ販売等の罪」(刑法187条)というのがあります。富くじは結果が偶然の事情にかかり、射幸心を煽るという点で賭博罪に準じるものとしていますが、人として生業を失わせるほどの勝負事ではないという点から、賭博開帳罪より法定刑が軽く(2年以下の懲役または150万円以下の罰金)なっています。
ところで、イベントの余興として「ビンゴゲーム」がありますが、ビンゴという偶然の結果により賞品が当たるので、イベントの参加者にビンゴゲームのカードを販売することは「富くじ販売罪」に当たるのではという疑問が出てきます。
興味深いので判例を調べてみたところ、大審院の判例(大判大正3年7月28日)では、富くじとは「発売者がくじ札を発売することによって複数の者から金品を集め、①当該金品の所有権はいったん発売者に帰属した後、②抽選の方法によって当選者を決め、③落選者の損失負担によって当選者に利益を与えるが、発売者自身は、富くじ発売前の状態からすれば金品得喪の危険を負担していないもの」と定義されているようです(条解刑法[第3版]528頁。なお判例の定義には批判もあります)。
この定義からすると、ビンゴカードを販売した代金で景品を購入しビンゴゲームを行うことは、まさに富くじの典型例にあたり、違法となります。他方、イベント参加者にビンゴカードを無償で配る場合には上記①にはあたらず「富くじ」にはなりません。また、イベントの入場料を払った人にビンゴカードを渡す場合にも、富くじを「販売」したとはいえないでしょう。
難しいのはイベント主催者が賞品を手出ししているが、ビンゴカードを有償で販売した場合です。ビンゴカードの代金が商品代にあてられている場合には形式的には「富くじ」となる可能性は否定できませんが、前記判例の定義からすると、主催者が賞品の費用を負担する場合には前記③の要件を満たさず、「富くじ」には当たらないと考えることもできそうです。ただし、「富くじ罪」は近年ほとんど事件化されておらず、先例や解説も少ないため、誤解を招かないような対応をすることも重要です。
ではどうすればいいのでしょうか。これは筆者の私見ですが、富くじ罪の成否にはビンゴカードと景品の対価関係があることが必要となると思われますので、仮にビンゴカードを有償とする場合でも、その代金は景品には当てないとすれば、富くじにはあたらないことになりそうです。例えばビンゴの収益は全額寄付にあて、また景品もスポンサーからの寄付によるとすれば、わかりやすいチャリティイベントになるのではないでしょうか。判例をよく読むと「ビンゴカードを有償で配布したら富くじ罪になる」という単純なものではなかった、という気づきでした。
(半田)