半田法律事務所からみなさまへ
2023.10.23 
コラム
刑事事件に関する誤解と課題

先日、X(Twitter)で以下のような投稿をしたところ、思いのほかバズってしまいました。

「刑事弁護をやってると、被疑者も被害者も含めて「弁護人は捜査段階で警察の手持ち証拠全てを見ている」という誤解が根強いことをしばしば感じる。 実際は起訴されるまでは通常証拠は見ることができないということと、起訴後も全面的証拠開示はなされないことはもっと広く知れ渡ってほしい。」(2023年10月12日投稿)

実際に刑事弁護の現場では、被疑者の接見の際に「事情は取調官に話したから、警察に聞いてください」ということを言われたり、被害者への被害弁償の際に「警察から事情を聞いていないのですか」と怒られることが珍しくありません。確かに、既に警察に話した内容をもう一度説明することの煩わしさや、被害実体を弁護人が知らないことへの不快感があるのは理解できますので、弁護人としても「日本の実務では、捜査段階では基本的に弁護人には一切証拠を見せてもらえないのです」と説明することしかできません。このような説明をすると、多くの場合は被疑者・被害者の立場を問わずびっくりされる方が多いという印象です。

また、同じような誤解で、「弁護人は取り調べに立ち会える」というものもあります。

こちらについても現行法では禁止はされていませんが、権利として認められているわけでもなく、捜査機関の裁量に委ねられています。そして、警察は立会いについて「組織的に判断する」というスタンスを取っており、実際はまず認めないというのが実情です。検察も個々の検察官の判断という建前はとっていますが、同様に立会いを許さないというスタンスがほとんどです。

ちなみに、私が過去に視察したEU諸国では弁護人が被疑者と接見する前に警察官の手持ち証拠を確認することができ、取り調べにも立ち会えます(そもそも日本のように長時間の取り調べはしていません)。なぜ日本の捜査がこのような秘密主義になっているのかというのは考察すべき問題とは思いますが、現状として刑事弁護(特に起訴される前の被疑者弁護)では、弁護人は捜査情報にほとんどアクセスできず、また取り調べについてもコントロールできないということをふまえて弁護活動を行わざるを得ないのが実情です。

もっとも、逮捕勾留されていない事件で弁護人が警察署に同行・待機しアドバイスをする「準立会い」は徐々に一般化してきており、警察や検察でも拒否されることはありません。これによって取り調べ時間も短くなったり、捜査機関の一方的な見立てで虚偽の供述をしてしまうことを防止することができるなどの実績も徐々に出ています。私も日弁連の取り調べ立会い委員会でこの問題に取り組んでいますが、弁護活動の新しいスタイル(諸外国ではスタンダードなのですが)として認知されつつあるように思います。また、逮捕されていない刑事事件では弁護人が選任されていないケースも少なくないと思われますが、弁護人による準立会いが防御活動に有効であることは、もっと社会にも周知されるべきだと考えています。

また、証拠開示についても、証拠そのものの確認はできなくても、捜査官が被疑者や弁護人に「○○という証拠がある」という話を昔に比べるとするようになっているように思います(ただし、捜査官の話が正しいかは別問題であり、証拠そのものへのアクセスの代替としては不十分です)。

日本の刑事司法、とくに捜査段階の手続きでは、一般市民の考え(誤解)が現在の制度よりも進歩的であるといえますので、今後、制度改革や運用面での対応を含め、より公平で被疑者の権利が守られるような制度が構築されるよう、議論が広まることを期待したいと思います。

(半田)